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最高裁判所第二小法廷 昭和49年(オ)480号 判決 1975年12月01日

上告人

中島貞助

右訴訟代理人

檜山雄護

外一名

被上告人

株式会社牧野商会

右代表者

牧野栄吉

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人檜山雄護、同工藤健蔵の上告理由第一点一について

本件詐害行為の成立を認めた原審の判断は、その適法に確定した事実関係のもとにおいては正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第一点二について

原審は、神保国治が上告人に対して本件建物につき本件代物弁済の予約をする以前にこれを譲渡担保に供していたと認定しているものではない。したがつて、所論はその前提を欠き、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でなく、論旨は、採用することができない。

同第二点について

不動産の譲渡が詐害行為として取消を免れず受益者において現物返還に代る価格賠償をすべきときの価格の算定は、特別の事情がないかぎり、当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準としてなすべきものと解するのが相当である。けだし、右価格賠償における価格の算定は、受益者が事実審口頭弁論終結時までに当該不動産の全部又は一部を他に処分した場合において、その処分後に予期しえない価額の高騰があり、詐害行為がなくても債権者としては右高騰による弁済の利益を受けえなかつたものと認められる等特別の事情がないかぎり、詐害行為取消の効果が生じ受益者において財産回復義務を負担する時、すなわち、詐害行為取消訴訟の認容判決確定時に最も接着した時点である事実審口頭弁論終結時を基準とするのが、詐害行為によつて債務者の財産を逸出させた責任を原因として債務者の財産を回復させることを目的とする詐害行為取消制度の趣旨に合致し、また、債権者と受益者の利害の公平を期しえられるからである。原判決に所論の違法はなく、所論引用の判例は本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(吉田豊 岡原昌男 大塚喜一郎 本林譲)

上告代理人檜山雄護、同工藤建蔵の上告理由

第一点<略>

第二点 原判決には詐害行為取消による価格賠償の場合における逸出財産の評価基準時について、法令の解釈を誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかであり、また理由齬齟の違法がある。

一、原判決によれば、本件代物弁済予約契約当時(昭和四〇年一二月九日頃)すでに本件建物に訴外株式会社第一相互銀行を債権者とする元本極度額金五〇〇万円の根抵当権が設定登記されていたところ、同根抵当権は昭和四一年四月二二日確定債権額金四二九万三、三二〇円の普通抵当権となつたが、目的物が不可分の本件においては、価格賠償が認められるべきであるとし、かつ右目的物の評価基準時を本件口頭弁論終結時である昭和四八年九月一四日としている。

二、ところで、原判決が右のように価格賠償をすべきものとする理由は、既に根抵当権が設定してある物件は、その被担保債権額を控除した残額だけが一般財産に含まれるものであるからということに存する。しかりとすれば、詐害行為とされる抵当不動産の処分行為のあつたその時点において価格賠償は確定的となつているのであり、その時の不動産の価格は客観的に算定可能であり、その後に変更するいわれはない。

三、履行不能による填補賠償算定の基準時について、最高裁判所の判例は、履行期の前後を問わず、不能が確定的となつた時を標準としている(昭和三五・四・二一最高民集一四巻九三〇頁、昭和三五・一二・一五最高民集一〇巻三〇六頁)。詐害行為取消による逸出財産の価格賠償も右と同性質のものであり、価格賠償が確定的となつた時点における価格によるべきものである。

四、よつて、本件建物及び本件借地権の価格賠償の評価基準時は、本件詐害行為時(昭和四〇年一二月九日頃)または少くとも本件代物弁済予約完結時(昭和四一年三月一日)とすべきである。そして、右両時点の本件建物及び本件借地権の価格(前掲村島鑑定の結果によれば金九六八万一、〇〇〇円ないし金九六二万九、〇〇〇円)によれば本件代物弁済予約契約は詐害行為とならないことについては前述したとおりである。

五、もし、原判決のように第二審の口頭弁論終結時を賠償価格の評価基準時とするときは、土地の価格が年々歳々不断に騰貴してやまなかつた少くとも昭和四〇年ないし昭和四八年の期間について考慮するとき、当初の時点において詐害行為とならなかつた行為がその後土地の値上りという他働的な原因により詐害行為となるという不合理を将来することはみやすい道理であり、第二審の口頭弁論終結時の如何により詐害行為となつたりならなかつたりするという極めて非論理的な結果を招き、法の安定は期すべくもないものといわなければならない。

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